Memories of summer

(乾×海 編 side 乾)




全国大会が終わって、俺達3年生は引退・・・


最後の夏に最後の夏休み

少しは満喫出来るかと思っていたが・・・どうやらそれも難しいらしい。

それというのも、俺の可愛い恋人は休むという事を知らない。


『たまには何処かに出かけないか?』


一応は提案をしてみたんだが・・・答えはデータ通りだった。

だから休みといえど、今日も変わらずロードワーク。

まぁ・・・それだけでもない・・・か・・・

海堂の中には俺と出かけたくない要因もあるようだしな・・・



「おい!」



黙々と走っていた海堂が、何かを見つけたのか目配せをしながら走る足を緩めた。



「どうした?何かあったのか?」



走る時はお互い無闇に話さない。

ましてや走る足を緩めるなど、普段の海堂には有り得ない事だった。

だからわざわざ足を緩めるだけの事があったのだと、俺は海堂に答えながら視線は目配せをした方へと向けていた。


菊丸・・・?



「声・・・かけますか?」



海堂はその場で足踏みしながら、ぶっきらぼうに聞いた。

だが心の中はかなり心配しているのだろう。

そうでなければ足を止めたりはしない。

見た目や話し方で誤解されやすいが、海堂は人一倍仲間思いだ。

特にテニス部の連中には本人が認識している以上に思っていると言っていい。


言えば・・・凄まれるだろうがな・・・

兎に角だ、そのテニス部のメンバーでもある菊丸が公園で一人ブランコに座りながら何やら真剣な顔をしていれば、見過す事など出来ないのだろう。

見たからにはほおって措けない・・・実に海堂らしい行動だ。

しかし・・・俺は菊丸の手元を見て、海堂に告げた。



「いや・・・このまま行こう。まだロードワークは残っている」

「えっ?ホントに・・いいんスか?」



海堂は俺が声をかけると思ったのだろう。

ロードワークを続けるという言葉に目を見開いて驚いた。


確かにな・・・いつもなら声をかけているだろう。

菊丸は俺にとっても大切な仲間だ。

だが今はここで声をかける事の方がアイツの為にはならない。



「あぁ」



俺はそのまま走り出した。

海堂は菊丸を振り返りつつ、渋々ついて来る。

かなり後ろ髪を引かれているようだ。

俺は海堂が並んだのを見計らって声をかけた。



「気になるか?」

「・・・あんたは気にならないのかよ?」



あくまで目線は前方を向いたままで視線が絡む事はないが・・・

不機嫌な顔をしている確立100%だな・・・

やれやれ・・・


俺はそれをわかった上で含みを持たせた返事をした。



「気にならなくはないがな・・・」



海堂はその言葉でようやく俺の方へ目線を向けた。



「・・・チッ!あんただけ納得してんじゃねぇよ」



凄みを利かせて海堂が俺を睨む。


しかしこうでもしなきゃ・・・お前は俺を見ないだろ?

普段から人の目を見て話さない奴だ。

ましてや今は海堂の中の要因が俺の顔を見ないようにさせているみたいだしな。

俺はじっくり間をおいて答えた。



「知りたいか?」



海堂はフンッと鼻を鳴らして、地面を睨みながら走る。



よほど気になっているようだ。



仕方がない・・もう少し焦らしたい思いもあるが・・・



これ以上焦らせば、本当に機嫌が悪くなってしまう。

俺は目的地の河原を目で捉えると、走る速度を緩めた。



「菊丸の癖だ」

「・・・・・」



海堂は何も返事を返さず、しかし歩調はしっかり俺に合わせている。



「菊丸の手元を覚えているか?」

「手元・・・スか?いえ・・・」



海堂は一度俺を見上げて、また視線を戻した。



「菊丸は親指の爪を噛んでいた」

「そうなんっスか・・・?」

「あぁ。それが癖だ」

「・・・・・・ハァ・・」



俺が言い切ると。

海堂は返事とも溜息とも取れるような言葉を発して、腑に落ちない様な顔をまた俺に向けた。


ウム・・・面白いな・・・


ここ数日つれない態度を取っていた海堂が菊丸の事が絡んだおかげで、それを忘れている。

この調子でいつもの俺達に戻れたらいいが・・・

それは虫が良すぎるというものか・・・



「海堂。もう少しペースダウンしようか」



俺は走る速度を更に緩めた。



「ではまた話に戻るが・・・」



海堂の方へ顔を向ける。



「あの場に大石が居なかった事はお前も気付いただろう?」

「それは・・・」



あの公園には菊丸しかいなかった。

それは誰の目から見てもあきらかだが、一人というのは普段の奴を知っているものならば

不自然極まりない事は言うまでもない。

いないという事はそれが原因だという事も説明するまでも無いことだ。



「菊丸が大石と喧嘩をした時、自分の方に非があると思った時にする癖だ。

あぁやって気持ちを落ち着けて、その後大石に謝りに行く。菊丸の行動パターンだな。

だからあの場では声をかけなかった」

「そう・・・だったんスか・・・」



海堂は納得したのか、ホッと一息ついた。



「安心したか?」

「えっ?あぁ・・・いや・・・俺は別にそんなに心配してた訳じゃ・・・」



バンダナを直しながら目線を外す海堂を横目に見ながらホントに可愛い奴だな・・と思う。

だから・・・このままじゃいけない。

菊丸を見て改めて思った。

菊丸はあぁやって自分に非があると思えば、頭を冷やして謝りに行く。

それまでにどんな暴言や殴り合いをしても、悪いと思えば必ず謝る。

それは大石との信頼関係が強いから出来ることなのだが・・・

その行為は見習うべきだと・・・



俺はもうここ何日かずっと海堂に悪い事をしたと思っている事がある。

謝るべき事だと思いつつ、謝るタイミングを逃してきた。

その結果・・・海堂は俺をちゃんと見ず、練習は一緒にするが出かける誘いは断る。

つれない態度・・・全ては自分で招いた事なのだ。




海堂・・・嫌な思いをさせて悪かったな。


菊丸・・・俺もお前を見習って逃げない事にするよ。






久々の乾海で・・・初乾視点なんですよね。


でも乾自体は所々違う話で出てたりするから、そんな気しないんですが・・・。

兎に角・・・楽しんで頂けたら嬉しいです。

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